一口に強度と言いましても、引っ張り力、圧縮力、せん断力などがあり、その強度評価として応力を現した物性値があります。全てに優れている材料及びそれが造形できる3Dプリンターというものはありませんし、形状によっても変わってきますので、主な用途を満たすサンプルデータでテスト造形してみて、慎重に機種を選定する必要があります。なお、多くの機種で標準的な形状、設定で造形した場合のデータシートが準備されていますので、それを参考にすることもできます。
例えば、MEX方式は横方向に造形した1層目の冷えた樹脂の上に、熱い状態の樹脂を次の層として造形し、それを繰り返して縦方向に積み上げていきます。縦方向の層の境界部分は横方向よりも材料のくっつきが弱いので、横方向よりも縦方向の引っ張り力は弱くなります。造形物の物理的特性が方向によって異なる事を異方性があると言います。造形方式によっては異方性が生じる事が有りますので、造形方向に注意が必要です。
機種によってABSなど一般的な材料が3Dプリンターでも使用できますが、あくまでその機種で造形するにあたって最適な状態に調整された材料であり、期待する物性が出るかどうかはテスト造形等で確認する必要があります。
前述の通り、MEX(材料押出)などの造形方式の機種では基本的にZ方向に層を積み上げてモデルを造形するため、縦、横方向に比べ高さ方向の引張強度が弱くなります。引張強度が必要な部分がある場合、スライスソフトでモデルの向きを調整したり、あるいは積層方向を考慮してあらかじめ3Dデータを作るなどして、引張強度が弱い部分を調整する事ができます。
造形後の後加工によって強度補強を施す方法もあります。塗装などがイメージしやすいところかと思いますが、実はネジ加工もよく話題に出ます。3Dプリンターで造形したネジ穴は精度の問題もありますが、強度が足らず数回のネジの脱着で欠けることがあります。そこでインサートなどの後加工を部分的に施すことで、ネジの脱着を繰り返す用途にも耐えることができます。その場合、インサート加工時の破損を防ぐためにネジ穴付近を肉厚に調整することがポイントです。3Dプリンターによる造形だけで強度を確保するのではなく、後加工を上手く組み合わせることも強度の高める策の一つとなります。
少しずつ普及が進んでいる金属3Dプリンターですが、SUS316Lや17-4PH(SUS630)などのステンレス鋼、A2やD2、H13などの工具鋼、Inconel®625などの材料が機種によって使えます。金属3Dプリンター本体の導入費用が樹脂の3Dプリンターに比べると高く、また付帯設備を含めた設置環境の準備は必要ですが、強度や硬度、耐熱性の高い金属材料を使った造形が必要な場合にご検討いただけるケースが増えています。
繊維で強化されたプラスチックは航空宇宙分野などでも使われている材料です。他社に先駆けて3Dプリンターでの造形を実現したMarkforged社の機種では、ナイロン樹脂に短繊維のカーボン(Chopped Carbon)をブレンドしたOnyxと呼ばれる基本材料に、炭素繊維やガラス繊維などの長繊維を織り込むことで、金属並の強度をもった造形物ができます。
Stratasys社のFortus450mc、F900、Markforged社のFX20などはスーパーエンプラのULTEM™ 9085に対応しています。またMEX(材料押出)の様々な機種でPCやPA等の エンプラに対応しています。あくまでそれぞれの機種による造形に最適化されたスーパーエンプラ、エンプラ材料となりますが、各材料の特徴に応じての強度をもった造形物ができます。
ステンレスや工具鋼等の金属材料での3Dプリンティングを比較的手軽に実現できること
従来の金属3Dプリンターは価格が1億円以上で粉末の取扱いがあるため設置環境の準備が難しいものがほとんどでした。それに比べますとDesktop Metal社のStudio System™ 2は低価格で粉末を使用しない方式であるため比較的導入のハードルが低い金属3Dプリンターです。材料としてはSUS316Lや17-4PHなどのステンレス鋼、A2やD2、H13などの工具鋼、Inconel®625が使用できます。プリンターでの造形と焼結炉の2ステップを経て造形物が完成となります。そのため溶剤による脱脂が不要となり、焼結炉内にて熱脱脂と焼結が行えるようになっています。また、プリンターと焼結炉はソフトウェアで管理されており操作も簡単にできるようになっています。
金属粉末を溶解し凝固させた高強度な金属造形、既存部品への付加積層造形が可能
Nikon社のLasermeister100Aシリーズは、レーザー照射と材料(金属粉体)の吹き付けを同時に行いながら溶融し、積層造形する方式の金属3Dプリンターです。フラットなベースプレートへの造形の他、既存品の上に積層造形をしていくことも可能で、欠けてしまった部品の先端部分を補修するような使い方もできます。SUS316LやSKH51が使用でき、溶融させる方式のためその材料本来の強度が出やすいのも特徴です。
スーパーエンプラ、炭素繊維強化プラスチックでの造形ができること
FX20は、Markforged社が提供するプリンタの中で最も造形エリアが広い機種です。スーパーエンプラのULTEM™9085も使用可能で、高強度かつ高精度の大型パーツ作成が可能です。造形方式はこれまでのMarkforged製品と同様の独自プロセスを採用し、大物部品を長繊維ファイバーとスーパーエンプラで強化した部品の製造が可能です。
FX20よりも安価に炭素繊維強化プラスチックでの造形ができること
X7は母材となるOnyx™にファイバーグラス、HSHTファイバーグラス、カーボンファイバー、ケプラーなどの長繊維を織り込むことで金属並の強度をもった造形物ができる産業用3Dプリンターです。積層ピッチも最小0.05㎜で高精細なパーツの造形が可能です。
HP独自のMulti Jet Fusion テクノロジーによる等方性、生産性、精度の高さ
造形エリアに敷き詰めた樹脂の粉末材料に2種類のエージェント(インク)を噴射し、ハロゲンランプの熱を効果的に吸収させて樹脂を溶融し形状を作っていくHP独自のテクノロジーで造形する機種です。クラス最高レベルの等方性と造形精度を備えながら、従来の3D造形方式と比べ、高い生産性で高品質な最終部品を生産します。また、PA12、PA12GB、PA11、PP、TPUと多彩な樹脂材料に対応しています。
ご覧いただきありがとうございました。一口に強度の高い造形を実現すると言っても、様々な選択肢があることがおわかりいただけたかと思います。強度が必要となる用途で、かつ3Dプリンターの導入による納期短縮、コスト削減、また複雑形状の実現などが見込める場合に、大きなメリットが出てくると思います。強度の高い造形ができる3Dプリンターをお探しなら、是非一度リコージャパンにご相談ください。
リコージャパンではお客様のご要望に合わせて、最適な3Dプリンターをご提案しています。機種により有償となりますが、サンプル造形にも対応が可能です。様々なメーカーの機種を取り扱っており、販売実績豊富な営業スタッフや販売パートナーがお客様のお悩みを解決します。以下より是非お問い合わせください。